DREAM MAGAZINE

曽我部恵一 フリートーク・ジャム’05 SUMMER #1

interviewed by natsuo kitazawa
photo by tadashi matsugi

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[ストーリーテラー]
―― 『ラブレター』には、「ハルコROCK」みたいに曽我部くんの日常生活が垣間見えるような作品もあるし、「有名になりたい」とか「セブンティーン」とか「ジュークボックス・ブルース」とか、曽我部くんの一回り下くらいの世代の男の子や女の子の視点で書かれた曲が入ってたり、フィクションとノンフィクションが混在してる感じがする。だから、完全に「有名になりたい」とか「セブンティーン」みたいな曲だけで構成していたら、“12人の視点から見た今この瞬間”を切り取った、コンセプト・アルバムとしてわかりやすい作品集になったかもしれない。

曽我部 三人称的な?

―― そう、ファーストの「She’s A Rider」みたいに、はっきりと三人称的な曲だけで統一したら、もっとわかりやすいよね。でも、『ラブレター』はそこまで徹底してはいないけれど、よく聴くと曽我部くんが主人公の曲はほとんどなくて、曲ごとに、主人公がリレーのように次々と交代していくアルバムなんだ。「ハルコROCK」だって、主人公は曽我部くんじゃなくてハルコちゃんだし(笑)。このアルバムを聴いて、曽我部くんは今後、自分自身の心境を歌うよりも、複数の視点からなる大きな物語を紡いで、その物語の主役ではなく登場人物のひとりとして曽我部くんが登場するような作風に移行していくような予感がした。サニーデイの頃から、"きみに似た別の誰か”が歌の中に登場してるし、その萌芽はあったから。作り手としては、どういうふうなイメージがあったの?

曽我部 最近出逢った人たち、例えば純くんとかの「有名になりたい」って想いがあるじゃないですか。それと自分の想い。そんな想いみたいなのが上手くこう、アルバムのなかで渦巻いた形になればいいなと思ってたんです。だから、街の音っていうか、街の、東京のいろんなかたちの思い。通じるものが聴く人にもあるだろうし。そういうもので彩られているようなアルバムにしたいなと。カラフルな感じにしたいと思ってたんです、感情がね。

―― これは、みんなに愛されるアルバムになると思うな。発展途上の人たちの気持ちがちゃんと入ってるアルバムだと思うから。ぼくら、幾つになっても発展途上だからさ。
良い曲もいっぱいあるよ。「抱きしめられたい」とかいいよね。「吉祥寺」はサニーデイ時代の名曲中の名曲「サマー・ソルジャー」を彷彿とさせる。これも続編かもしれないね。「ジュークボックス・ブルース」なんか、既にライヴでは欠かせない曲になってる。

曽我部 そうですね。キメたいときの1曲。

―― 「セブンティーン」は、なんかバズコックスみたいでいいなって。70年代のイギリスのパンクの曲って、こういうことを歌ってた。詞も含めて、こういうイギリスのパンクロックにグッときてたんだよな、って思い出した。ブームタウン・ラッツの「哀愁のマンデイ (I DON'T LIKE MONDAYS)」(1979年)みたいに大ヒットした曲でも、あれは確か16歳の女の子が小学校でライフルを乱射した事件を歌ってた。高校生の頃、あの曲を聴いて、どんなことを歌ってるんだろうと思って訳詞を読んでみて、それでもやっぱり遠い国の出来事のような感じがしたけど、今の日本では、超リアルにそんな事件ばっかり起こってる。だから、極論でもなんでもなく、今の日本では、本当のパンクロックかソウルミュージックしか、リアルに響かないとぼくは思う。あるいは本当のブルースしか・・・・・・こういう、17歳の女の子が主人公の曲を、今の自分が作って歌うって、どんな気持ち?

曽我部 新鮮だよ。でも、もっともっと女の子の気持ちで歌いたい(笑)。意図してコンセプチュアルに作ったわけではないんですよね。なんとなく「セブンティーン」っていうワードでスッとできたんですよ。

―― いよいよジェンダー ・フリーに到達?(笑) でもさ、それこそあの頃のパンクの連中って、今の日本みたいな状況のなかで歌ってたんじゃないかって、ようやく今にして分かったようなところがある。あの頃、日本は、表面的にはまだまだ平和だったから、パンクといっても、もうひとつ実感が湧かなかった。でも、イギリスでは、例えばザ・ジャムのポール・ウェラーは、当時めちゃくちゃ若かったのに、説得力持って歌ってたじゃない。

曽我部 持つよねぇ。あのストリートの情景、みんな作り話なのにね。物語りが飛び込んで来る。ああいうところ、ポール・ウェラーすごい才能。

―― あながち全部フィクションとも言い切れないんだよね。「チューブ・ステイション(Down In The Tube Station At Midnight)」(『オール・モッド・コンズ(ALL MOD CONS)』1978年に収録)とか、地下鉄のホームで移民が暴行受けて・・・みたいな実話を元にした曲もジャムにはあったしさ。曽我部くんも今にきっと、そういう曲を書いて歌うようになるんじゃないかな。無理にそうしようとしなくても、必然的にそういうことを歌わないわけにはいかなくなるはず。

曽我部 そういうふうにやってみたいですね。

―― でも、日本語でそういう歌詞を書くのって、なかなか難しいかもしれない。

曽我部 難しいんですよね。ヘンな感じになったりするんですよ。

―― 60年代末から70年代初頭のフォークの人たちの方が、むしろそういうことを自然にやってたかも。

曽我部 それこそ高田渡さんとか・・・。

―― 住処のない人の視点で歌ったり。高田さん自身が完全に歌のなかで一体化してるから、すごい説得力がある。URC時代もそれ以降も、高田渡は何を聴いても染みるしガツンとくるよね。岡林信康にも「今日をこえて」(『わたしを断罪せよ』・1969年、『岡林信康自作自演コンサート 狂い咲き』・1971年などに収録)とか、今ジャストに響く曲がある。当時、フォークこそパンクだったんだ。松本隆さんがプロデュースした『金色のライオン』(1973年)っていう隠れた名盤もあるし、はっぴいえんど聴くなら岡林さんまで聴いて欲しいな。曽我部くんも、「セブンティーン」とか「有名になりたい」をきっかけに、今後どんな曲を書いていくのか、すごく興味深い。

曽我部 どっちもそうだけど、「だれかのなかにいるオレ」、「オレのなかにいるだれか」の気持ちで歌いたいんだよね。

―― それはもちろん伝わってるよ。そういう意味では、曽我部くん自身がメディアになって、少年少女たちが発している電波をキャッチして、曽我部くんというモニターの画面にその都度映し出されるというイメージが浮かぶんだ。画面はずっと砂嵐状態なんだけど、時々パパパッて女の子の画が映ったり、今度は純くんみたいな少年が映ってたりとか、このアルバムはなんかそういうイメージ。あるストーリーが5分くらい映ってまたバッと砂嵐に戻る、みたいなさ。

曽我部 おもしろいね。

―― そういうなかに、“パパ、何か甘いものをちょうだい!”って走り回るハルコちゃんが映ったりしてね(笑)。

曽我部 ドキュメンタリーだね、そういう意味では。

―― ドキュメンタリーだし、オムニバス・ムーヴィだよね。だから、今後を予感させるアルバムだな、ってぼくは思う。

[果たされなかった夢、書かれなかった言葉]
―― 収録されたのは、全部最近できた曲?

曽我部 そう。ここ1年くらいの曲。

―― ストックはないの?

曽我部 『ラブレター』にはないですね。いつも何曲かはそういうのもあるけど。

―― 『STRAWBERRY』はどうだった?

曽我部 「ブルーのこころ」とかは、前からやってた曲。

―― 『STRAWBERRY』からどのくらい空いたのかな?

曽我部 去年の10月ですからね。9ヶ月間?

―― 製作に入ってどのくらいでできたの?

曽我部 これ早かったですよ。3、4日でトラックは全部録って、あとはちょっとしたダビングとかミックス。

―― 早録りだね(笑)。『ラブレター』をアルバム・タイトルにしたのは、どういうイメージ?

曽我部 ぼくがみんなに送るラブレターというよりも、開かれなかったラブレター、読まれなかったラブレターというイメージ。

―― 肝心な言葉が上手く書けないっていうのは、誰にでも覚えがあるよね。

曽我部 うん。「ラブレター」の2番の歌詞はね、ハルコが歌ってたんですよ。それをオレがパクったっていう。

―― “今は 愛する気持ちがない”とか?

曽我部 適当に知ってる歌の文句を並べてるんだよね。それをハルコが、オレがうとうと寝てる横で歌ってて。で、その歌声が朗々としてるっていうか、ピュアで。なんの意識も意図もないような、ただのヴォイスっていうか。それがすごい綺麗でいいなーと思ってこの曲ができた。その前は、2番は別の歌詞だったんですね。もう少し純文学的だった。説明的というか。

―― 1番とちゃんと対応してて、すごい良いと思う。

曽我部 なんか、そういう表面上には現れない気持ちにスポットを当てたいな、っていうのはあるかも。全体的に。果たされなかった夢、書かれなかった言葉。そこに確かにあったであろう物語り。

―― そうだよね、ロックなんて満たされないから聴きたくなるし、欲しくなるし。満たされてる人にロックは要らないんだよね。

曽我部 オレがハードコア聴いてたのも、最もハードに満たされてなかった時だし。ハードコアしか聴きたくない時期があった。今はいろいろ聴きますけどね。でも、やっぱりハードな音楽が好きですね。昨日買ったのもブギー・ダウン・プロダクションズとか。なんか、ああいう強い・・・。

―― ガツンとくるやつ。戦闘モードなのかな、やっぱり。戦闘モードであるし、飢えてもいる。その両方?

曽我部 何をしようとしてるかよくわからないですけど、作品としては。やっぱり、1、2年経たないとどういうアルバムだったか、自分ではわからない。『若者たち』でさえ、出した時はさっぱり自分にとってどういうものかわからなかったし。それが数年すると、これってこういうことかっていうのがわかってくるから。このアルバムは、ひよっとしたらTVのドキュメンタリーみたいな感じ、地方の。なんか愛しいっていうか切ないっていうかさ、なんかああいうような感覚に近いかな?

―― ぴあフィルム・フェスティバル(註3)とかに応募してくる自主製作映画とか?

曽我部 そのオムニバスみたいな(笑)。

―― (笑)でも、そういう気持ちで作ってるって、素敵なことだよ。曽我部くんみたいに10年以上キャリアがあるとさ、たいていはそんな気持ち、欠片も残ってないもん。

曽我部 そう! どっしりしてないのよ。だからロックの曲も、例えば「ジュークボックス・ブルース」、これもさ、ロックンロール、イェー! という面もあるけど、どっちかというと空元気っていうか。

―― 空元気ね。そうかも(笑)。

曽我部 そこがミソかなとも思ったりして。

―― 空元気なんだけど闘ってるんだよね、ファイティング・ポーズとって。

曽我部 ジャニスとかそうでしょ。ジャニスがいちばん好きなんだ、シンガーで。

―― ジャニス・ジョプリン?

曽我部 ジャニスの歌がいいのってさ、そういうところがあるのかな。書かれなかったラブレターみたいなことを歌っているような。

―― 切ないよね、ジャニスは。

曽我部 ただどっしりとしたロックってわけではない。そこには女の子の欲望や夢や絶望が漂ってる。

―― 必然的にロックンロールになっているけど、ブルーズだよね。ロックンロールの原点はブルーズだから。曽我部くんも「FIRE ENGINE」の頃から、明らかにブルーズに傾倒し始めたでしょう。ライヴでシャウトするようになったし、ロックンローラーっていう意識が高まっていると思うから、そういう気持ちは前作以上に入ってる。きっと、自分のなかである程度きちんとコントロールして作っているんだろうけど、コントロールしないで、行けるところまで行ってしまおうという瞬間がどのライヴにもあって、そこがたまらなくスリリングなんだ。

曽我部 うんうんうん。

註3 1977年から続く映画祭。才能ある若手監督を多数輩出している。通称PFF。
2005年度の最終審査員は映画監督の恩地日出夫、青山真治、映画プロデューサーの椎井友紀子、映画俳優のオダギリジョー、
そして映画好きの曽我部恵一。

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