DREAM MAGAZINE
DREAM MAGAZINE #9  page2/3
曽我部恵一が登場しない、
曽我部恵一の音楽の特集

あるいは、〈ラブシティ〉に辿り着くまでの、道しるべのような文章

インタビュー/構成:大久保和則
恋人たちのロック
『ラブシティ』には、曽我部恵一バンドのメンバーももちろん参加しているが、バンドのメンバーが勢ぞろいしているのは3曲目に収録された「恋人たちのロック」とラストの「WINDY」の2曲のみ。特に「恋人たちのロック」では、彼らの真骨頂と言えるラウドで疾走感にあふれるロックンロールを聴かせてくれる。最近のライヴでは、オープニングを飾る曲としておなじみのナンバーだ。そのレコーディングの様子を、ドラムスのオータコージ(※6)は、こんなふうに語ってくれた。
「ホントにワンテイクかツーテイクで終わりましたね。僕の記憶によるとですけど、レコーディング自体は10分ぐらいで終わった印象があります。『こういう曲があるんだ』って曽我部さんがいきなり弾いて。で、『すぐ録るから』って。ホントに早かった。勢いが録りたかったんだと思います。僕の場合は、プロセスがどうであれ、そこに込めるものはあんまり変わらないんですよ。『恋人たちのロック』は、テイク的には早かったけど、そうじゃなかったとしても込めるものが変わっちゃおかしいじゃないですか?早いからこそ大変だって部分もありましたしね。『こういう曲がある』って持ってきて『すぐに録る』って言うのは、『あ、勢いが欲しいんだな』って瞬時に理解して、録るまでの間に曲の世界観を出さなきゃいけないっていう。頭でっかちにではなくて、身体でそれを感じてたんだと思うんですけど、そんな楽ではなかった気はしますね。結果的にはすぐ録り終わったんですけど、意外に難しかったかもしれません。」

続いて話を訊いたのは、ベースの大塚“ケニー”謙一郎(※7)。大塚は、「恋人たちのロック」「WINDY」以外に、「ラブ・セレナーデ」にも参加している。
「『ストロベリー』の時はわかりやすかったんですけどね。もう、いわゆるロックのアルバムを作ろうっていう。中学生の目ん玉が飛び出ればいいなって(笑)。今回は、アルバムの全体像は僕らには見えないまま、進んでいきましたね。ソカさんって、歌詞もがらっと変わったりしますしね。今回で言えば、『アップルソング』なんかがそうです。歌詞が全然違いましたもん。自分なりになんとなく予測はしてみるんですけど、最終形は毎回違いますね(笑)。けっこう早い段階で、『土曜の夜に』があったんですけど、こういう感じで来るんだったら、基本カーティス(・メイフィールド)(※8)みたいな感じで、リズムものっていうか。そういうアルバムになるのかなと思ってましたが・・・・・・そういうのは『土曜の夜に』だけでした(笑)。でも、そんなふうに曲が変わっていったり予測が出来ないのって、自分の子どもと同じですよね。親が『こんな大人にしたい』って思っても、そうならないことのほうが多いじゃないですか。音楽もそういう部分があると思います。ソカさんは、(曲を)産む瞬間は見せてくれないけど、その直後のへその緒がまだついててドロドロの状態ぐらいからは見せてくれる人。そこからいろんな形で育てていくっていう。レコーディングした中では、『ラブ・セレナーデ』が大変でした。ソカさんからは、『シンプルに』っていうリクエストがあったのを覚えてます。今どきの音楽って、やんなくてもいいことやったりするでしょ? 僕はベーシストだから、特にベースラインを聴いちゃうんですけど、『そのフレーズ、なんか意味あんの?』みたいなことも多い。『ラブ・セレナーデ』は、そこをなるべく抑えるっていうか、何かしらの気持ちや思想がない音は絶対に入れないっていう。だから緊張感はありましたよね。作り方はちょっとジャズに近いっていうか。周りの音を聴きながら、乗っかるところは乗っかる。無視するところは無視して。ま、でも普通に聴いて、すごいいい曲ですけどね(笑)。今回は、ソカさんの周りの集合体で作った作品ですよね。曲によっていろんなメンバーの組み合わせでやってて。いい広がりが生まれればいいなと思います。『東京 2006 冬』なんか、すごくいいですもんね。僕、参加してないんですけど(笑)。でも、アルバムのタイトルにまた〈ラブ〉がついてて、どんだけつけるんだって思うけど、たぶん、密かに狙ってるんですよ、ギネス。『ラブをいちばん多く歌った人』っていう(笑)。」

曽我部バンドのメンバーの中で最後に話を訊いたのは、ギターの上野“スウィートベイビー”智文(※9)
「僕は『3つの部屋』と『恋人たちのロック』、『ラブ・セレナーデ』と『WINDY』で弾いてますね。『ラブ・セレナーデ』は、あんまり出過ぎず、でも出るところは出るってところをキモに演奏しましたね。うん、難しかったかな。探りながら、でも探りを消しながらやるっていうか・・・・・・あんまり(意識的に)探っちゃってもダメなんですよね。僕、消極的なんで、そういうふうにしちゃうと小じんまりしがちなんですよ(笑)。今回のアルバムは、『ラブレター』とは全然違いますよね。ソカさんのファースト・アルバムに『夏』って曲があるじゃないですか。あの時もいろんな人を集めて大人数でレコーディングしたんですけど、あんまりうまくいかなかったんですよ。それを、今回のアルバムであらためてやろうとしてるのかなって思ったりはしましたけどね。あとは、今までやってきたことが、ソカさんの中でうまく混じり合ってきてるのかなって思います。」


新しい出会い 新しい場所
ソロ以降の旧知のメンバーが揃う『ラブシティ』だが、曽我部の新しい出会いから参加したメンバーもいる。キーボーディストの横山裕章(*10)だ。
「去年の11月に、タニザワトモフミというソロ・アーティストのサポートで富山のイベントに出たんですけど、そのイベントでトリを務めたのが曽我部さんだったんです。イベントが終わった後、打ち上げの席で声をかけられたのが最初の出会いですね。ライヴを見てくれてたらしく、『ピアノ、いいね』って言ってくれて。その時に、『今度いっしょにやろうよ』とも言ってもらってたんです。そしたら、年が明けた3月にホントに電話がかかってきて(笑)。11月のイベント以降は一回も連絡がなかったので、そのままなのかなとも半分思ってたんですけどね。しかも、曽我部さんが指定していた日は、もともとほかのアーティストのレコーディングが入ってた日だったんですよ。それが、そのアーティストの事情でたまたま飛んだんですよね。だから、すごく運が良かったと思ってます。僕が参加してるのは、『土曜の夜に』、『3つの部屋』、『恋人たちのロック』、『ラブ・セレナーデ』、『幻の季節』、『どこかでだれかが』の6曲です。曽我部さん以外は、ミュージシャンのみなさんと初対面だったんで、すごい緊張しましたよね。まずは自分の思った通りに弾いて、それに対して曽我部さんが『もっと音数少なくして』とか『もっと弾いて』って言われて調整していく感じでした。『土曜の夜に』は、リズムがビル・ウィザース(*11)の『ラブリー・デイ』(*12)みたいな感じだったんで、ピースフルなイメージで。最終的には、もうちょっとドライな感じに仕上がったと思うんですけど。」

アルバムのレコーディングと同時期には、下北沢に中古レコード屋&カフェ&バー<CITY COUNTRY CITY>がオープンした。大好きな街に、仲間といっしょに手作りで作り上げた<新しい場所>だ。ショップのスタッフであり、三宿<web>で行われている「ローズ・パーティー」では、fuzzboyとしてDJを務める平田達朗に話を訊く。
「買い付けてきたレコードをいっしょに聴いて、『いいねー』ってふたりで感動してましたよ。だから、ここでいろんな新しいレコードを聴いて受けた感動が、どこかで『ラブシティ』にフィードバックされているところはあるかもしれないですね。レコーディングし終わってから、お店に来て作業したりもしてましたよ。壁壊したり、ペンキ塗ったり(笑)。どちらにせよ、このお店が出来たのは、本人にとって大きかったんじゃないかなと思います。あと、『ローズ・パーティー』でも、『土曜の夜に』と『どこかでだれかが』をかけたりしてましたね。動機としては、『新しい曲が出来たから、聴いてみて』っていう感じなんでしょうけど、お客さんの反応が良かったから、手ごたえは感じたんじゃないかと思います。『ラブシティ』は、より多くの人に聴かれてしかるべきアルバムですけど、その裏にある曽我部くんの『繋がりたい』っていう想いは、DJをやってる時に一体感を求める感覚に近いのかなって思います。それはたぶん、バンドだけをやってたら得られない感覚で、DJもやってるからこそ生まれてきた感覚なんじゃないかなって、俺は思ってます。それが今、バンドのライヴにも、今回の作品にもフィードバックされてるんじゃないかなって。」
そんな平田の話を聞いていると、<CITY COUNTRY CITY>の在りようが、想像上の<ラブシティ>の風景と、なんだかだぶってくる。気の合う仲間がいて、最高の音楽があって、美味しいパスタとコーヒーがあって、とりとめのないおしゃべりが続いていく場所──それだけなのかもしれないけれど、それこそが<ラブシティ>なのかもしれないな、なんて思う。


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※6.
スプージーズなどに参加した後、『ラブレター』より曽我部恵一バンドに参加。
現在は曽我部バンドのほか、The Sun calls Stars、アフロウズ、L.E.Dのメンバーとして活動中。
ほか、サポートワークも多数あり。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~drumsko/ (オータコージHP)
※7.
曽我部恵一バンドのメンバー。上野とのCRAZY PAPAとしても活動中。
http://upopokun.exblog.jp/ (大塚謙一郎ブログ)
※8.
1950年代後半よりR & Bコーラス・グループ、インプレッションズのメンバーとして活躍した後、1970年よりソロに転向。
マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー、ダニー・ハザウェイらと並んで、ニュー・ソウルと呼ばれた。
メロウなだけでなく、社会的な問題を問いかけたそのサウンドは後の音楽に多大な影響を与えた。
1999年没。代表作は、『スーパーフライ』『ゼアズ・ノー・プレイス・ライク・アメリカ・トゥデイ』など多数。
※9.
曽我部恵一バンドのメンバーにして、<CITY COUNTRY CITY>のランチパスタ担当。大塚とのCRAZY PAPAとしても活動中。
http://sgsgsg.exblog.jp/ (上野智文ブログ)
※10.
大学在学中から様々なアーティストのツアーサポート・楽曲提供・アレンジ・プロデュースなどを手がける。
また、CM・映画・テレビ・舞台などの音楽制作にも携わり、幅広く活動中。
※11.
洗練されたメロディ&アレンジとさわやかな歌唱で人気を博した黒人シンガー・ソングライター。
AOR風味の都会派ソウル・ナンバーが根強い人気を誇る。
代表作は『スティル・ビル』など、ヒット曲に「リーン・オン・ミー」などがある。
※12.
90年代、フリー・ソウル・ムーヴメントで再評価された、日本でも人気のメロウ&グルーヴィー・ナンバー。

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