DREAM MAGAZINE
DREAM MAGAZINE #10  page3/8
『ラブシティ』のすべて

インタビュー/構成:大久保和則
「カーティスより俺のほうがいい」って自分で思いたい
──収録する楽曲を選んでいくときの基準を言葉にすると、どういうことになります?
「いろんなタイプの曲が入ってるけど、人の胸に飛び込んでいくことを邪魔する要素がないものばかりにしたと思うんだけどね。ポエトリーの曲とかも作ったりするんだけど、でもそういう曲は、ポエトリーであることがまず先に来ちゃうっていうか、何かを邪魔すると思うんだよね。その邪魔することがロック的に作用するんだと思うけど・・・・・・たとえば、ヴェルベット・アンダーグラウンド(※9)とかマイブラ(※10)は、すごく透明感のあるきれいな甘いメロディが人の胸にすーっと入っていきそうになることを、フィードバックとかノイズの嵐が邪魔をするわけじゃん? それがすごい快感だったりするわけだよね。でも、今回はその快感はなくてもいいかなって。すーっと、どんだけストレートに届くかっていうことを意識した。ただ、今はこうして言葉にしてるけど、そのときは、もちろん言葉なんかないわけで、ひたすらサウンドの中でトライアルが続くだけ。言葉で論理的に考えても、何もはじまらないわけよ」
──作っているときは。
「うん。論理的に考えたことは、全部失敗に終わっていく。だから、すごく難しいよ。頭で考えたことは、音楽にあまりうまく反映されなかったなぁ。特に今回は」
──にしても、みんなが好きって、やっぱりすごく高いハードルだよね?
「すごく高いハードルだったけど、『東京』や『MUGEN』と違うのは、鬼のようにライヴをやるっていう日々を経てるから、すごいフィジカルになれてたってこと。ビートの説得力が違う。それは、すごいうれしいよ。あんな大変な思いして、年に100本以上もライヴやってよかったなぁって思う」
──そこが当時との一番大きな違い?
「うん。ビートと、あとは言葉の説得力。人に向かって歌うべき、歌うための言葉で歌ってるからね。『東京』みたいに、コンセプチュアルに短編小説を書くように、机に向かって書いた言葉じゃないから。あれはあれで、世界観がすごく完結してていいんだけど」
──ホントに尋常じゃない数のライヴをしてきたもんね。
「良かったよ。アンダーグラウンドで地道なライヴ活動をしてきて。ミュージシャンとしては、そこにしか何かを体得していく術はないんだなって思う。いくらスタジオに入ってギターを弾いても、コンピュータを前にしてトラックを作っても、結局はなんにも体得できなくって。それだったら、自分の曲をDJでかけるとか、ライヴを一本やるとか、そういうほうが全然得るものが多いね。だってさ、マーヴィン・ゲイ(※11)の曲をかけたあとに、自分の曲をかけたら、何が足りないかがわかるもん」
──それはDJをしてるときの話?
「そうそう。フロアを見ながらでっかい音で聴いてると、足りないサイズがはっきりとわかる。足りないものの大きさっていうのかな。それは、ビートのこことここが足りないとか、そういうことじゃなくて」
──それは、今みたいな活動をする前は全然気づけてなかったこと?
「そうだね。たとえば『ギター』はさ、ライヴをこんなにやる前に作った曲だから、今歌うとキーが低くて歌いづらいのよ。あの曲、俺はすごい好きだし、自分の原点だとは思ってるけど、フィジカルな曲ではないんだよね。そこの差なの。『ラブシティ』に入ってる『東京 2006 冬』も、『ギター』と同じで日記みたいな曲だけど、『東京 2006 冬』は人前で歌えるの。歌ってて気持ちいいっていうか。だから、あの数百本のライヴがなかったら、このアルバムは出来なかったって言えるかもね。このアルバムのためのライヴだったとも言えるし、これから先の何かに繋がっていくためのものでもあると思う。こんなにヘトヘトになりながら、なんのためにライヴやってんのかなぁって、俺自身も半分不思議に思ってたんだけど(笑)」
──『ラブシティ』に詰まっている何かを体得するためのライヴだったってことだ。
「そうだね。これから先は、また違う何かを体得していくんだろうし。まだやっぱ、マーヴィン・ゲイのほうがいいと思っちゃうんだよねー。『なんで俺のほうがマーヴィンより良くないんだろう?』『やっぱカーティス(※12)のほうがすごいな』って、いっつも思っちゃうから。『いや、そんなことなくって、カーティスより俺のほうがいい』って自分で思いたいから、そのためには練習とか、何か欠けてるものがあるんだと思うから。別に、ああいうサウンドを目指してるわけではなくて、まだ到達できてない何かがあるってことが、自分でわかるのね。カーティスとかマーヴィンの域に達するための道のりは、修行みたいなもんだと思ってて。カーティスもマーヴィンも俺のこと知らないけどさ、俺は勝手に師匠だと思ってるから、いろんなものを盗もうとしてるわけ。早く師匠があのころ作ったものに到達したいなと思うけど、そのためには、もっとライヴを重ねたりとか、自分の人生の深いところに気づくことが必要なのかなと思うし」
──こうやって話を聞いてると、『ラブシティ』は曽我部恵一の集大成的なアルバムっていう言われ方をしてるけど、新たな第一歩的な意味合いも強いのかなって思えてくるよね。
「うん。これから、もっとよくなると思ってるよ。最終的には、もっともっと自分の音楽を完成させていきたい。だから、『ラブシティ』の中には、今後作っていくアルバムのいろんな要素が入ってると思う。あるアルバムは、『土曜の夜に』みたいなサウンドをアルバムいっぱいに拡大したものになるかもしれないし、何年後かに作るアルバムは、『アップルソング』みたいな音になるかもしれないしね」

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※9.
アンディ・ウォーホルの手によるバナナのジャケットがあまりにも有名な伝説のロックバンド。
ルー・リード、ジョン・ケール、ニコなどを擁し、ニューヨークという街の現実を、その斬新な音楽の中に封じ込めた。
バナナ・ジャケのファースト『ヴェルベット・アンダーグラウンド&ニコ』は、曽我部のフェイバリット・アルバムのひとつ。
ほかにも、『ローデッド』『3』など、名作多数。
フロントマンのルー・リードは、ソロになってからも『トランスフォーマー』『ベルリン』など、意欲的な作品を多数発表している。
※10.
マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン。‘84年に結成され、メンバーチェンジ後、‘91年に名作『ラブレス』をリリース。
インタビュー中の曽我部の発言にもあるように、至福の超甘メロディ+轟音ギターサウンドで、のちに多くのフォロワーを生んだ。
ヴォーカル&ギターのケヴィン・シールズは、現在、プライマル・スクリームのサポート・メンバーとして活動してる。
※11.
今なお、世界中のミュージシャンに多大なる影響を与え続ける偉大なるシンガー。
曽我部恵一の師匠のひとり。代表作は、『ホワッツ・ゴーイン・オン』『レッツ・ゲット・イット・オン』など。
『ラブシティ』のジャケットは、その『レッツ・ゲット・イット・オン』にインスパイアされて制作された。
さらに、CDの盤面には、マーヴィンが在籍したモータウン・レーベルのデザインを引用するなど、
曽我部自身がディレクションした『ラブシティ』のアートワークには、師匠へのリスペクトが随所に散りばめられている。
※12.
インプレッションズのメンバーとして活躍した後、ソロに転向。
‘70年代、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー、ダニー・ハザウェイらと並んで、ニュー・ソウルと呼ばれ、
その後の音楽に大きな影響を与えた。
代表作は、『スーパーフライ』『ゼアズ・ノー・プレイス・ライク・アメリカ・トゥデイ』『バック・トゥ・ザ・ワールド』など多数。
曽我部恵一の師匠のひとり。

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