DREAM MAGAZINE
DREAM MAGAZINE #10  page6/8
『ラブシティ』のすべて

インタビュー/構成:大久保和則
午前2時をまわり、いよいよ後半戦。曽我部は、なんだか頭が冴えてきた様子で、いい感じにくだけてきている。ちょっと疲れ気味に見えた前半に比べて、ずいぶん笑顔が増えた。お茶を注ぎ足し、みかんをほおばりながら、『ラブシティ』収録曲の背景を訊いていくことにする。

「3つの部屋」は、
可愛い女の子がレコード屋にいたときの破壊力はとんでもないって話

──後半は一曲ずつについて話を聞いていこうと思います。まずは一曲目の「土曜の夜に」。
「最初はこの事務所で作り始めたんだけど、すごい簡素なトラックだったよね。それを生でビッグバンド風にやろうと思ったんだけど、どうにもうまくいかなくて。バンドでやると、躍動しすぎちゃう感じになるんだよね。それで、もう一回デモを聴いてみようってことになって、スタジオでデモを聴いたわけ。そしたら、デモのたどたどしくて単調なリズムパターンが良くて、そのトラックに戻したんだよね。生だとねー、『あぁ! 愛ってなんだろう!!』って、平井堅さん(※19)みたいになるっていうかさ(笑)」
──あー(笑)。
「もっと、不安感みたいなものを出すのが狙いだったのね。『土曜の夜に飛び出していきたい』っていうアッパーな感情に、『あぁ、愛ってなんだろう?』っていうすごい不安定な感情を置くことの新鮮さを出したかった。テクニカルなことだけで言えばね。生バンドでやると、それが高揚感だけになってしまう感じがして」
──ビル・ウィザース(※20)の「ラブリー・デイ」(※21)のリズムが引き合いに出されてるよね?
「そう。それと、カーティスの『トリッピン・アウト』(※22)ね。その名リズムだよね、これは」
──今の「不安感とグルーヴ(=アッパーな感情)」の関係性の話を聞くと、カーティスのリズムが引用されてることに、すごく必然性があるのがわかるよね。
「そうなのよ。それまでのソウルって、性を大らかに謳いあげるものだったんだけど、ニュー・ソウルからは内省的なものに変わってきたじゃない?」
──当時のニュー・ソウルのアーティストたちって、音楽的にも社会的にも、ひとりの人間としても、新しい世界に飛び出していきたい、踏み出していきたいって気持ちが強かったんだけど、同時にそれに対する不安感みたいなものも抱えてたもんね。
「そうなんだよね。歌詞に関しても、作詞家講座的に言ったら、〈思いっきり走り出したい〉がサビになるべきなんだろうけど、自分としては、〈あぁ 愛ってなんだろう?〉をサビにすることに意味があった」
──「土曜の夜に」は、最初から一曲目?
「これは決定だったね。これではじまるっていう。・・・・・・あのさぁ、俺ね、『ひょうきん族』(※23)がはじまる感じがすごい好きだったわけ」
──あー、俺も好き。
「『ひょうきん族』って、なんかキラキラした感じではじまるじゃん? はじまったら、のりお師匠(※24)が『ツッタカター!』(※25)とかやるだけなんだけど(笑)。でも、あの土曜の夜がはじまるなぁっていうのが好きでさー」
──わかるわかる(笑)。
「あと、『ベストヒットUSA』(※26)がはじまる感じとかさ。土曜の夜は、やっぱりこうでしょ!みたいな、キラキラ感でいきたかったすね」
──よーくわかりました。次の「3つの部屋」はいろんな人に歌ってもらおうと思ってたんだよね?
「HARCOくん(※27)とか、くるりの岸田(繁)くん(※28)とかね。HARCOくんの『世界でいちばん頑張ってる君に』(※29)っていう曲に対応してるのが2番なんだけどね、実は」
──「対応してる」っていうのは、どういうこと?
「『私、こんなにがんばってるんだから何とかしてよ』って、女の子とか、よく言うじゃん(笑)。でもさ、『お前もがんばってるかもしれないけど、俺はもっとがんばってるよ』っていうのが、男としての言い分じゃない? だから俺は、HARCOくんみたいに、『世界でいちばん頑張ってる君に』なんて、絶対に歌いたくなくてさ。そりゃね、口では、『そーなんだー。そっかー・・・・・・そんな部長なんか、死んだらいいのにねぇ!』って言うけどさ(笑)、でも本心はさ、俺のほうがもっときついぞっていう男の言い分があって。それを男サイドが、『世界でいちばん頑張ってる君に』って言っちゃダメ。誤解しないで欲しいんだけど、HARCOくんの曲は、すごいいい曲なのよ。だけどね、それだけだと、男女間のあつれきっていうのが、潜在意識の深いところに押し込められちゃって、ものすごい不健全。もっとぶつかりあわなきゃ。HARCOくんが歌ってるのは、やさしさだよ。それは、女の子にとっては大事。でも、それだけを通しちゃうと、ホントに女の子だけががんばってるみたいなさ、男の子も大変だぞっていうところはさ、男の言い分として残しておかないと。男と女の絶対に交わらない線っていうのがさ、隠されちゃうわけ。ともすれば、男と女は交わっちゃうんじゃないかって、みんなが誤解すると困るじゃない? 誤解すると、たぶん犯罪も増える。離婚も増える。交わるわけないのよ、男と女は。絶対に交わらない。でも、それでいいじゃんっていう」
──そんな背景があったとはねぇ・・・・・・まったくわかんなかった(笑)。
「あと、『3つの部屋』って、フランス語にすると『トロワ・シャンブル』になるんだけどさ、下北に同じ名前の喫茶店(※30)があるじゃない?あの店が舞台なの。トロワ・シャンブルの店内って3つに区切られててさ、手前の部屋にはいちゃついてるカップルがいて、入って右奥の俺が好きなテーブルにはつきあって1年目ぐらいのカップル。つきあたり左には3年目ぐらいの疲れたカップルがいてっていう、そういう話。それは、カップルの成長物語でもあってさ。俺にとっては、ストーリーテリングもので、下北賛歌」
──岸田くんには、1番を歌ってもらおうと思ってたの?
「そうそう。〈レェコォォードォ屋ぁー〉とか、うまそうじゃん(笑)」
──似てる似てる(笑)。
「レコード屋ってさ、かわいい女の子とか少ないわけ。いるとしたら、ジャズとかブラジルものとか見てるんだけど。だから、もしひとりでエサ箱(※31)なんか見てたら、店内の男たちの意識が、その女の子に集中する感じがすごいのよ(笑)。目はレコードを見てるんだけど、オーラがその子にビュンビュン飛んでってるわけ。女の子もたぶんそのオーラを感じちゃってると思うけどね。のほほんとした下北の昼下がりに、ひとつの卵子に向かっていく精子のように、ビューって行くあの感じっていいなぁって(笑)」
──何年か前に、下北のディスクユニオンに髪が長くてすっごい可愛い女の子がいたんだよねー。ハードコア・パンクのとこ見てた。
「あぁー。でもその場合は、彼氏もハードコアの可能性が高いからさ、男たちの精子の泳ぎ方もちょっと弱くはなるよね。やっぱ、ハウスとかチェックしてると、『あ、いけるかもしんない』って(笑)」
──思うかもしんない(笑)。
「だから、女の子がひとりでエサ箱を見てる姿は、永遠のキュンとするポイントですよ。今日もC.C.C. (※32)に寄ったらさ、女の子がひとりでレコードを見てたけどね。でも、自分の店だから、あんまりジロジロと見るわけにもいかず。まぁ、レコード屋と恋人同士の密接な関係っていうのは、中古盤屋に足繁く通うようなやつらにはわかると思う。別れに発展しますからね、女の子を中古盤屋に連れまわしてると(笑)。やっぱり種が違うっていうかさ。ちょっとでも安い値段で名盤を手に入れたいとか思わないでしょ、女の子は。ザリガニとか集めてきてさ、形とかサイズを競わせたいって、女の子は思わないよ。思ったら変だし。それはやっぱしょうがない。そういう深い話です。これは。でも、それでもそんな女の子がレコード屋にいたときの破壊力、それはとんでもないって話ですよ」
──ま、今の話も聞かなきゃわかんないけどね(笑)。
「でも、わかってくれるやつはうれしいよ。仲間(笑)」
──普通にいい曲ですけどね。
「ちなみに、ドラムは俺が叩いてます」

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※19.
多数のヒット曲を持つ男性シンガー・ソングライター。実は曽我部とは同い年。
最新シングルは、「アイルケ」こと映画『愛の流刑地』の主題歌で、1月17日リリースの「哀歌(エレジー)」。
はじめて女性の目線で歌詞を書いたのだそう。
※20.
洗練されたメロディ&アレンジとさわやかな歌唱で人気を博した黒人シンガー・ソングライター。
AOR風味の都会派ソウル・ナンバーが根強い人気を誇る。
代表作は『スティル・ビル』など、ヒット曲に「リーン・オン・ミー」などがある。
※21.
90年代、フリーソウル・ムーヴメントで再評価された、日本でも人気のメロウ&グルーヴィー・ナンバー。
※22.
‘80年にリリースされた『サムシングス・トゥ・ビリーヴ・イン』に収録された楽曲。
メロウかつグルーヴィーな名曲であり、山下達郎が「あまく危険な香り」で、そのリズムを引用したことでも知られている。
ちなみに、『サムシングス〜』のジャケットのイラストは、マーヴィン・ゲイの『アイ・ウォント・ユー』と同じく、
アーニー・バーンズが手がけている。
※23.
『オレたちひょうきん族』。
‘81年から‘89年にかけて、フジテレビ系列で土曜夜8時からオンエアされていた伝説のバラエティ番組。
ビートたけしと明石家さんまをメインに、当時の漫才ブームを支えていた面々が総出演。
人気裏番組『8時だョ!全員集合』を放送終了に追い込むほどの人気を誇っていた。
オープニングは、ロッシーニの「スイス独立軍の行進のテーマ」が勢いよく流れる中、
女性お笑いコンビ・おきゃんぴーらが速射砲のような喋りを展開するスタイル。
エンディングは、女性シンガー・EPOによるシュガーベイブの名曲カバー「ダウンタウン」。
※24.

西川のりお。
‘80年代の漫才ブームでは、西川のりお・上方よしおの通称のりお・よしおで人気を博す。
今でこそ当たり前になったキレ・キャラ、暴走キャラの元祖的存在。
『ひょうきん族』では、「ツッタカ坊や」や沢田研二のパロディなどで活躍。
中でも、コント赤信号やヒップアップのメンバーと組んだ「西川のりおとフラワーダンシングチーム」は出色。
※25.
『ひょうきん族』における西川のりおの名物キャラ・ツッタカ坊やが登場するときのフレーズ。
リズミカルに行進しながら発せられる、ナンセンス・ギャグ。
※26.

曽我部が言う『ベストヒットUSA』は、『ひょうきん族』とまったく同時期となる‘81〜‘89年に
テレビ朝日系列でオンエアされていた「第1期」のこと。
名ディスクジョッキーであった小林克也氏の名を、一気にお茶の間にまで広げるきっかけになった番組でもある。
ウィークリーチャートとは別に、「タイム・マシーン」や「スター・オブ・ザ・ウィーク」といった名コーナーがあり、
当時の音楽少年たちは、この番組を見て音楽の歴史や背景を勉強していたと言っても過言ではないほど。
※27.
‘97年デビュー。柔らかくやさしい歌声で根強い人気を誇る男性シンガー・ソングライター。
そのポップで親しみやすいメロディが多方面で評価され、多くのCMソングに起用されている。
最新アルバムは、これまで手がけたCMソングを集めた『ポータブル・チューンズ』。
公式HPは、http://www.harcolate.com/
※28.

くるりのヴォーカリストであり、ギタリストであり、ソングライター。曽我部とは、京都から上京した直後に知り合っている。
公式HPは、http://www.quruli.net/
※29.

スズキ・アルトのCMソングとしてスマッシュヒットを記録したシングル曲。
※30.

下北沢にある、曽我部お気に入りの喫茶店。落ち着いた店内に、静かにジャズが流れる。
※31.

中古レコード屋で見受けられる縦入れタイプのアナログ盤収納ボックス。
ダンボール箱の上部を切って代用することも多い。
ネーミングは、両手を交互に動かしレコードをあさるヴァイナル・ジャンキーたちの上腕部の動きが、
鳥たちがエサをついばむ姿を想起させることに由来する。
ヴァイナル・ジャンキーたちにとってのアナログ盤は、日々の生活を豊かにする、
まさに食べものにも勝る“エサ”であり、その意味でも絶妙のネーミングと言えるだろう。
※32.

2006年6月に、曽我部が仲間たちと下北にオープンさせたカフェ&レコードショップ&バー&ライヴスペース。
曽我部バンドのギタリスト・上野智文がランチを担当し、
「ローズパーティー」でDJを担当する、fuzzboyこと平田立郎がレコードのバイヤーを務める。

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