DREAM MAGAZINE
DREAM MAGAZINE #10  page7/8
『ラブシティ』のすべて

インタビュー/構成:大久保和則
「恋人たちのロック」は、爆発する恋愛
「ラブ・セレナーデ」は、破滅寸前の愛

──「恋人たちのロック」は、ワンテイクかツーテイクで録り終えたんだよね?
「そうだね。これは、スピードについての曲かもね。『昨日・今日・明日』ってタイトルでも良かったかもしれない。『今日』っていうタイトルでも」
──スピードについての曲っていうと?
「恋人たちの何も目的のない燃え上がり方、その刹那的な感じを歌ったってこと。恋愛って、目的も意味もないじゃん、本当は。『3つの部屋』では、結婚だとか、幻想としてのゴールを求める様が描かれるんだけど、『恋人たちのロック』では、それがなくって、どこにも向かわないそのときだけ爆発する恋愛を描きたいなって。それじゃん、恋愛って」
──そうだね。
「本当の恋愛って、その爆発力だけだからさ。目と目が合った瞬間、もう次はキスしてたみたいな、そういう瞬発力。結局、恋っていうのはそういうものでしかないよっていう。そのスピードについての曲」
──次は「アップルソング」。
「出発点は、よしもとばななさん(※33)からもらった『みずうみ』(※34)っていう小説に、男女が通りをはさんで窓越しに互いを意識してるっていうシーンがあって、その想いがテレパシーみたいに空中に舞ってる感じが素敵だなっていうのがあって。お風呂に入りながら読んでて、そのときにふふふーんって作った。下北の天気がいい昼下がりとか歩いてるとさ、脳とか停止状態に近いじゃん? そういう感じですよ(笑)」
──『ラブ・セレナーデ』。
「もともとは、カート・コバーン(※35)の映画用に作って」
──その依頼があって作ったって感じ?
「モチーフ自体はその前からあったけど、依頼があって完成に至った曲かな。破滅に向かう、真夜中のアル中のロック・スターとヤク中の彼女、そこにある愛みたいな。『ベティ・ブルー』(※36)にも近いし、カート・コバーンとコートニー・ラブ(※37)のストーリーとも言えるし、『シド・アンド・ナンシー』(※38)でもいいし。あの夜の一瞬、破滅に向かう寸前の美しさっていうか。あのさ、エフェクターって、電池が切れる瞬間がいちばんいい音すんの、知ってる?」
──へぇー、知らなかった。
「ギターアンプもそうなんだけど、いちばんいい音がするのは、アンプから煙が出る寸前なのね。実は、『恋人たちのロック』も、まさに取り終えたその瞬間に煙が出たのよ。電池が切れる瞬間の音がいいっていうのは、エフェクターマニアの間では定説になってて。どうしてかっていう理由には諸説あって、はっきりはわかってないんだけどさ。何が言いたいかというと、そういう破滅の一歩前の美しさみたいなものを書きたかったってことなのよ。もう現実は完全に終わってて、悲しみばっかりに包まれて、酩酊状態の終わりが訪れようとしてるんだけど、そのときの愛の熱さみたいなものを書きたかった。だからちょっと狂おしいような、情熱的な感じなの」
──こういうテーマで曲を書くのって久しぶりなんじゃないの?
「好きなんだけどね。壊れゆく現実の中での美しさの歌。自分の曲でいうと、サニーデイ時代の『星を見たかい?』がそう。作家でいうとフィッツジェラルド(※39)みたいな。カーヴァー(※40)とも言えるけど、ああいう崩壊寸前のギリギリの美しさみたいなのがすごい好きで」
──ソロになる前は、そういう匂いって音楽の中に割かしあったよね?
「サニーデイのときはそうだね」
──当時から『ベティ・ブルー』とか好きだったしさ。
「そうだねぇ」
──だから、この感じは久しぶりだなぁと思ってさ。
「そうかもね。でも、この感じはあるよ、ずっと。でも、今はこの感じだけじゃないからな。明日死んじゃったら困るしなっていうのは、今はやっぱりある。サニーデイのときは、地でそういうふうに生きようとしてた感じがあるし」
──ここまで来る流れのなかでのクライマックスだよね。レコードで言えば、A面の最後みたいな。
「確かにそうだね」

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※33.
‘87年に『キッチン』でデビューして以来、日本はもとより、世界各国で高い評価を受ける小説家。
代表作は、『うたかた/サンクチュアリ』『TUGUMI』『デッドエンドの思い出』など多数。
最新小説は、‘93年の作品『とかげ』をリメイクした『ひとかげ』。
『ラブシティ』のリリースと同日には、公式サイト内の日記などをまとめた『ついてない日々の面白み』が発売された。
公式HPは、http://www.yoshimotobanana.com/index.html
※34.
2005年に発表された長編小説。
※35.
ニルヴァーナのヴォーカリストにしてギタリスト、ソングライター。
‘91年に発表した『ネヴァーマインド』は、世界中のロック・ファンに大きな衝撃を与え、のちのシーンに多大な影響を与えている。
‘94年、ショットガンで頭を撃ち抜いて自殺。
※36.
‘86年に公開された狂気と純愛の物語。ジャン=ジャック・ベネックス監督の代表作で、
‘92年には、大幅に変更された完全版『インテグラル』が制作された。
※37.
カート・コバーンの妻であり、ミュージシャン、女優。
ロックバンド・ホールでの活動を経て、カートの死後、本格的に女優活動を開始。2004年にはソロとしてデビュー。
※38.
セックス・ピストルズのベーシスト、シド・ヴィシャスと恋人・ナンシーの破滅的な愛を描いた‘86年の作品。
監督は、『レポマン』で知られるアレックス・コックス。音楽はジョー・ストラマーが手がけている。
ちなみに、コートニー・ラブの女優デビューは、端役としての出演ではあるが、この作品。
※39.
スコット・フィッツジェラルド。‘20〜‘30年代にかけて活躍したアメリカの作家。
波乱の人生を送る中、『美しく呪われし者』『クレート・ギャッツビー』『夜はやさし』などの名作を残した。
※40.
レイモンド・カーヴァー。村上春樹の名訳でも知られる、現代アメリカ文学を代表する作家。
ごくごく個人的な物語と美しい詩的表現の中に、現代社会が抱える暗部を巧みにもぐり込ませた短編の名手として知られ、
日本でも人気を誇っている。代表作は、『頼むから静かにしてくれ』『ぼくが電話をかけている場所』など。

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