DREAM MAGAZINE
DREAM MAGAZINE #10  page8/8
『ラブシティ』のすべて

インタビュー/構成:大久保和則
「東京 2006 冬」が一番好き
やっぱ自分だなって思う
──で、「幻の季節」。
「ロック的な曲の解釈じゃなくて、ティン・パン・アレー(※41)的な端正なポップスのあり方をやりたかった。それがいちばん難しいんだけどね。それは、日本語のポップスで歌が立っているものっていうことで、もっと言うと、アレンジにクセがないっていうか。欧米のポップスって、やっぱりドラムとかがかっこいいわけよ。でも、日本の歌謡曲って、別にドラムがかっこいいわけじゃないじゃん? でも、あの感じじゃなきゃ、日本語のポップスは成立しないわけよ。それをみんなにわかりやすく伝えるために、ユーミンっぽい感じって言い方をしてたんだけどね。ああいう端正な、ドラムがひとりで暴れ始めたり、ギタリストがガンガン弾いたりとかじゃなくて、誰も出て行かない、でもしっかりと歌を支えてるようなアレンジをしたかった。それによって、歌とストーリーが際立ってくるっていう。歌も淡々としてるんだけど、じんわりとストーリーが入ってくるみたいな曲をやりたかったんだよね」
──この場合のユーミンっていうと、いつぐらいのイメージなの?
「『14番目の月』(※42)と『コバルト・アワー』(※43)。その2枚が俺は好きだから。それより前だと、ちょっとミュージシャンシップがありすぎる感じがするし、それよりあとだと、エンターテイメントに寄りすぎてる感じがするし」
──確かにそうかもしれないね。
「自分たちの演奏がもっと上手いともっとよくなるんだけど、これが現時点での限界だね。これより少しテクニックが落ちると、ちょっとボロっとしすぎる。サニーデイのいくつかの曲みたいに、学生感が出すぎちゃうんだよ。今回は、ギリギリのところで踏みとどまったかな、ポップスに」
──音楽的な部分以外のテーマはどんなものだったの?
「過去に対する後悔も踏まえた曲にしたかったかな。過去を懐かしんで、あのときああしてたらこうなってたかもしんないって気持ちってさ、歳を重ねると誰にでも生まれることかもしんないけど。でも、それでも今日が、明日が素敵だって思う気持ちとかさ。その失敗した過去と、今と明日がはっきり繋がってるんだって思える瞬間の喜びというか、きらめきを歌いたかったから。それがテーマだからね、この曲は。過去が通り過ぎていくんだけど、それがまた、今日ふとね、昔捨てた恋人が乗ったバスが通り過ぎるかもしれないイメージ。それが『幻の季節』っていうことなんだけど。そうやって繋がってるもんじゃん。『マグノリア』(※44)で好きなセリフがあるんだけどさ、『過去を捨てたと思ってても、またいつか自分を追いかけてくる』って、ホントの本当でさ。だから偶然なんてありえないんだってことなんだけど。生きてると、そういう現実に直面するよね。俺さ、女の子と別れたら、もう二度と会いたくないのよ。でも、どっかでその子の想いっていうのがさ、幻のように立ち昇ることがあって、それは避けて通れないっていう」
──「どこかでだれかが」。
「これは、アイディア一発っていうか。コミカルな曲」
──コミカルな曲?
「うん。コミカルなつもりで作ってる。『みんなのうた』(※45)みたいじゃない? 『みんなのうた』で流れたらいいな、この曲。どこかの国では大事件とか、どこかの国では鎖国中とか、そういうシリアスなこともコミカルな曲調で歌っちゃいたいなっていうのもちょっとあって。いろんな人が街を歩いていく感じを、ソウル・ナンバーみたいな感じでやりたかったかな」
──コミカルな感じで聴いて欲しいっていうのがいいよね。
「軽いテーマじゃないからこそ、軽い曲にしてあるっていう部分はあるけどね。これこそが現代社会の抱えてる大問題点じゃない?どこかでだれかが成功して、どこかでだれかが失敗して、どこかのお母さんが子どもを殺して、どこかの少年が自殺してって、どこかでは戦争してて、どこかではセックスしてて、誰かが税金を取られてて。そういうことを歌いたいのよ。でも、そのテーマをさ、レディオヘッド(※46)みたいな曲調で歌ったら、もう終わり。地獄じゃん。それをこういうノーザン・ソウル(※47)のジャンプ・ナンバーみたいにハッピーな感じで歌えると、伝わり方が全然違うんだよね。そういう意味では、ピチカート・ファイヴ(※48)みたいな曲」
──「東京 2006 冬」。いろんなレビューやインタビュー記事を読んだけど、みんなこの曲のことを熱く語ってますよね?
「なんだろうね。この曲のことをまず言われるよね、すべての取材において。成長していくこと、もっと言うと老いていくこと、なくしていくことの歌だからさ。そういう歌をロマンチックに歌えたなとは思ってるけど。そういうことって、歌いたくないし、向き合いたくないことじゃん? でも、それに触れて、歌ったから、みんなこの曲に触れてくれるのかなとは思うけどね。歳を取ると、容姿だって悪くなっていくわけじゃん。可愛かった女の子はおばさんになっていくだろうし、旅ができなくなるだろうし、家庭に縛られていくんだろうし。そういうときって、ロックってほとんど形骸化していくんだろうけど、でもそれがロックなんだっていうかさ。いろんなものをなくしていくよねって歌うことって、なんかロマンチックかなって。俺もこの曲が一番好きなのよ。やっぱ自分だなと思うし。今じゃないと歌えなかったと思うし」
── 一曲目から続いてきた流れが、ここでピークを迎える感じがあるよね?
「一曲目からうわーときてさ、ここで突然世田谷区の住宅街にバンって引き戻される感じなんだよね。今まで街でいろんな人とすれ違いながら、アッパーな気持ちだったのに、突然みのもんた(※49)、みたいなさ(笑)」
──お昼の相談みたいな(笑)。
「あるいは、小倉(智昭)さん(※50)みたいな(笑)。突如飛来するリアリティってのを、ここでやりたかったのよ」
──突如飛来するリアリティって(笑)。
「それまでの主人公は、どっかまだ若いよね。でも、これは完全に中年の歌だよね」
──それは自分ってこと?
「うん。それを卑下して歌うんでもなく、事実を事実として歌うんだけど、そこにロマンチックさを入れたかったんだよね、どうしても。で、それができてる。だから、この曲が一番好きです」
──でも、この曲で終わろうとは思わなかったわけだよね?
「これで終わってくれって意見もあったのよ。でも、これで終わっちゃうとさ、小倉さんで終わっちゃうことになるじゃん(笑)。じゃなくて、最後はやっぱり羽ばたきたいじゃない? それも、『よしっ』て言って、家族を捨ててさ、蒸発してテキサスに旅に出るんじゃなくて。『よしっ』て言って、子どもの手を引いて羽ばたいていくような、ベランダの窓を開けて、心が外に羽ばたいていくような、そういう曲で終わりたかった」
──そのための曲が、『WINDY』だったってことだよね。
「『WINDY』は、ロックなんだけど、バレアリック・ハウス(※51)に通じるようなキラキラ感があると思う。4つ打ちのリズムじゃなくても、宇宙的な躍動感があるものはハウス的だなって感覚が自分の中にはあって。自分の中にある、『ロックもハウスも好き』っていう感覚が、音楽の中で融合できてよかったなって。『WINDY』は、何かを開放していくような、広い意味でのダンス・ミュージックって気がしてて」
──なるほど。今は、だいぶ客観的にアルバムを捉えることができるようになってる感じ?
「まだまだかな。これをライヴで歌っていってからだと思うんだけどね。たぶん、全部歌ってく。大人数のバンドでやるポップスショウみたいなライヴは、初夏ぐらいにしたいなと思ってるんだけどね。曽我部恵一バンドと弾き語りともうひとつ、『ラブシティ』以降のライヴスタイルを作りたいなって」
──最後に、その新しいライヴスタイルを作ることも含めた、これからについて。
「はっきり言って、またここから険しい道が待ってるぞって思う。それに対して、じゃあやっていくっていう意識、覚悟みたいなものはある。昔だったら、これ作ったらもういいやっていう気持ちがあったのよ。若いころは。でも、今は全然そういうふうに思えないかな。かっこよく言うと、旅が終わらないっていうことがわかったのかもしれないし。何も解決しない、どこに行っても満足しないという、自分の欲の深さが、ようやくこの歳になってわかったのかもしれない。答え探しのゲームをやってるわけでもないし。なんにせよ20代のときとは違う風景が見えてるってのは、すごくさわやかな感じだけどね」

下北沢の一番街を曽我部と一緒に歩いて、お互いの帰路に着く。踏み切りの手前で別れて、ケータイを見ると、「4:44」の数字。昔だったら、「不吉だなぁ・・・・・・」と思ったのかもしれないけれど、今は、「あ、C.C.C.だ!」なんてことを思い、ちょっと笑う自分がいる。もうすぐ明けそうな空は、紫でもピンクでもなく、つまりはそんなにきれいではないのだけど、それでも着実に、朝に向かって蒼のグラデーションを変化させている。たぶんきっと、冬晴れの空が広がりそうな気配だ。

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※41.
キャラメル・ママを改称し、細野晴臣、鈴木茂、松任谷正隆、林立夫が結成したバンド。
実質的な活動期間は‘74〜‘78年と短いが、アグネス・チャンやいしだあゆみから、大滝詠一、荒井由実、吉田美奈子にいたるまで、
多岐に渡るシンガー/ミュージシャンのバックを精力的に務め、日本のポップスの黎明期に大きな足跡を残す。
『キャラメル・ママ』『ティン・パン・アレー2』と、2枚のオリジナル・アルバムを残している。
バックを務めた細野晴臣の3部作『トロピカル・ダンディ』『泰安洋行』『はらいそ』は音楽史に残る金字塔。
※42.
荒井由実としては4枚目のアルバムにして、独身最後のアルバム。
この作品から夫である松任谷正隆がプロデュースを務めている。
代表曲「中央フリーウェイ」収録。タイトル曲は、スピッツがカバーしたことでも知られている。‘76年リリース。
※43.
名曲「卒業写真」「ルージュの伝言」などを収録した、荒井由実としてのサード・アルバム。
ティン・パン・アレーのメンバーが全面参加。山下達郎もコーラスで参加している。‘75年リリース。
※44.
セックス伝道師、元クイズ王のダメ男、天才少年など、一見無関係に見える10人の24時間を描く群像劇。
‘99年に制作され、ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した。監督は、『ブギーナイツ』のポール・トーマス・アンダーソン。
※45.
2006年に45周年を迎えた、NHKの子ども向け歌番組。
林静一や和田誠など、著名作家の絵を何気に使用することでも知られるが、
宇多田ヒカルからChar、ソウル・フラワー・ユニオン、果ては楳図かずおまでを起用する歌い手の人選にも注目したい。
※46.
トム・ヨークを中心に結成され、デビュー以来、高い評価を受け続けるイギリスのロックバンド。
最新作は、2003年に発表した『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』。 代表作は、『OKコンピュータ』。
2006年には、フロントマンのトム・ヨークがソロ・アルバム『ジ・イレイザー』を発表した。
※47.
米南部のソウル・ミュージックをサザン・ソウルと呼ぶのに対し、
シカゴやデトロイト、フィラデルフィアといった北部のソウル・ミュージックをノーザン・ソウルと呼ぶ。
また、マンチェスターやシェフィールドといったイギリス北部の若者たちが好むソウル・ミュージックを総称して呼ぶときもある。
ただし、英ノーザン・ソウルが本来の米ノーザン・ソウル的音楽性を多分に含んでいることから、同義に捉える場合もある。
「ダンサー」と称されるメロウ&スウィート、ハッピー&ダンサブルな音楽性が特徴。
※48.
‘84年に小西康陽を中心に結成され、ジャズやソウル、ブラジル音楽から、クラブ・サウンドまでを洒脱に昇華した
スマート&ファッショナブルなサウンドで注目を集め、2001年の解散まで、渋谷から世界を股にかけて活躍した。
ダブの手法を多用した『月面軟着陸』、サンプリング&コラージュ・ポップ『女性上位時代』など、
そのユニークかつ実験的な音楽性の裏に、シニカルなメッセージも。
曽我部は、ピチカートのカバー集『戦争に反対する唯一の手段は-ピチカート・ファイヴのうたとことば』において、
「メッセージ・ソング」をカバーしている。
※49.
世界一忙しい司会者。
本名が御法川法男(みのりかわのりお)であることは、年配の方たちにはよく知られた話。ニックネームは、「みのさん」。
※50.
大橋巨泉直系のフリーアナウンサー。現在は、朝の情報番組『とくダネ!』の司会を務める。実は、30歳を過ぎてからも、公共料金の滞納が続いていたという苦労人。秋田県出身。
※51.
ネーミングの由来は、世界的なリゾート地にして、多くのクラブ・ピープルたちの聖地として知られる
スペイン・イビザ島を擁するバレアリック諸島から。
元々は、イビザのクラブでプレイされるスペイシーで高揚感あふれるハウス・ナンバーの総称と思われるが、
現在では様々なタイプのダンス・ミュージックを形容する場合に用いられ、その音楽的解釈は、人によって異なる部分もある。
ロック・ファンの間では、ストーン・ローゼスが影響を受けていたことから知られるようになり、
同時期に起こったムーヴメント=セカンド・サマー・オブ・ラヴの背景としても注目された。

photo 曽我部恵一 『LOVE CITY』
(ROSE 45/ CD album) ¥2,500(tax in)

1. 土曜の夜に
2. 3つの部屋
3. 恋人たちのロック
4. アップルソング
5. ラブ・セレナーデ
6. 幻の季節
7. どこかでだれかが
8. 東京 2006 冬
9. WINDY


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