DREAM MAGAZINE
DREAM MAGAZINE #10  page1/8
『ラブシティ』のすべて

インタビュー/構成:大久保和則
12月13日の24時。約束の時間にローズレコードに着くと、曽我部はすでに到着していて、山積みのCDを前に足でリズムを刻んでいる。スピーカーから流れているのは、N.W.A.(※1)の『ストレイト・アウタ・コンプトン』(※2)。「今のヒップホップは全然聴かないけどさ、このころのって、ファットで好きなんだよねー」なんてことを言いながら、お茶をすすっている。
『ラブシティ』を巡る曽我部との対話は、ここから4時間あまりにも及んだ。本人の意向もあって、アルバムの話から脱線している部分以外は、大幅なカットなどを極力せずに、できる限り再録するように構成した。にしても、雑誌などのインタビュー記事に比べると、かなり長い文章なので、まー気長に読んでもらえたらなーと思う。
まずは、アルバムの制作がはじまってから、そのイメージをつかむまで、そして『ラブシティ』の全体像の話から。

“何を求めてたか?”っていうと、
やっぱり“聴きやすいポップなアルバム”っていうことなんだよね

──『ラブシティ』は、今まででいちばん長い時間をかけて作ったアルバムになりましたよね?
「そうだね。1月ぐらいから作りはじめたから、なんだかんだで10ヶ月ぐらいやってたかな」
──最初から、「アルバムを作ろう」と思って作りはじめたの? それとも、曲ができてるからレコーディングしとこうかなって感じだったの?
「アルバムを作ろうと思ってやりはじめたね。なんか・・・・・・できそうだなって感覚。なんとなくなんだよね、出だしはいつも。で、とっかかって、あとは格闘していくという」
──最初は、この事務所をスタジオにして、ひとりで打ち込みのトラックを作ってたんだよね?
「そうそう」
──それは、ひとりでアルバムを作ろうと思ってたの?
「最初は、確かにひとりで作ろうとしてた。それがどこに向かうのかはわからないけど、まずはひとりで作りはじめようみたいな感じがあったんだよね」
──でも、その時点では具体的なアルバムのイメージがあったわけじゃないんだよね?
「『ストロベリー』は、“青春のロックンロール”っていうことがテーマで、それを目指して作ったし、『ラブレター』は、曲ありき。できた曲をそのままレコーディングしようっていう。それに対して、今回はもっと漠然としてたよね。ぼんやりとしたイメージが、だんだんと像を結んでいく感じだった。最初はさ、宅録で、カセットのMTRだけを使ったザラザラしたポップス集を出そうとか思ってたんだけど、一日ぐらいでやめちゃって」
── 一日でやめたんだ(笑)。
「そのアイディアを持って、スタジオにも入ってみたんだけどね。『なんか違うな』って。次にトライしたのは、〈コンパクト〉(※3)っていうドイツのケルンにあるレーベルで出してるような、ミニマルなんだけどハートウォームな感じのテックハウス──ホントに簡素な打ち込みをバックに俺が歌うっていう。それは、ずっとやりたいことのひとつなのよ。とにかく歌がぼーんと届くっていうかさ。それって、なかば弾き語りにも近いことなんだけど。そういうアルバムを作ろうと思って、ここに作業場を作ってやりはじめたんだけど、それも一ヶ月ぐらいやって、飽きたっていうか、別の形に変わっていったね」
──「アップルソング」なんかは、その時の感じに近いんじゃない?
「そうだね。『アップルソング』は、その時期のなごりの曲。実はなんだけど、『アップルソング』は入れるつもりがなかったのよ。でも、『アルバムの中で一番いい』『新機軸だ!』っていう人が結構いて、自分的には『えぇーっ!?』って感じだったんだけどさ(笑)。ただの習作のつもりで作ってたからね。こないだDOMINO88(※4)っていうバンドをやってるキヨシくんのラジオに出たんだけど、キヨシくんも『アップルソング』が一番いいとか言ってたし」
──そんな裏話があったんだ(笑)。
「自分じゃわからないわけ、いまいち(笑)。もちろん、自分でいいと思って作ったわけだけどね。自分としては、習作・小品と思って作ってるけど、それゆえの魅力ってあるんだろうなと考えて、入れることにしたの。そう思ってから、曲自体をビルドアップしていった感じはある」
──なるほどね。
「だから、わかんないもんなんだよね。『東京』のときもそうだよ。『真っ赤な太陽』はさ、自分の中では大した曲じゃないと本気で思ってて。でも、当時のディレクターの渡邊(文武)さん(※5)が、『曽我部、あれは人気曲になるから、絶対に入れておいたほうがいい』って言うの。で、渡邊さんがそう言うんだったら、入れとこうかなって思って入れた。そしたら、『真っ赤な太陽』が好きって言ってくれるファンも、結構いて。入れといて良かったのかなぁって。『あじさい』も、シングルのカップリング用に作って、演奏も完全に間に合わせだからね(笑)。ドラムもベースも自分でやってんのね。ただスタジオに自分がいたから、さくっとやろうと思って。そしたら、『これがシングルのカップリングだともったいない』とか言われて。じゃあ入れようかなって」
──でも、「アップルソング」みたいな、ミニマルなサウンドをバックに歌ったアルバムも聴いてみたかったけどね。
「ずっと作りたい音楽のひとつなんだけどね。機械の音に自分の声がぼーんと乗っかってるだけのアルバムって、自分で聴いてみたくてさ。完全に機械的な、あんまり人肌な感じのない、マシーンノイズみたいな音をバックに歌いたい。だから、ビョーク(※6)の『ヴェスパタイン』(※7)みたいなアルバムって、すごい好きでさ。でも、今じゃなかったってことだよね」

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※1.
ドクター・ドレ、アイス・キューブ、イージーEなど、
のちにソロでも大活躍したラッパーを擁した伝説の5人組ヒップホップ・グループ。
いわゆるギャングスタ・ラップと呼ばれる黒人社会の日常をリアルかつスキャンダラスに綴ったリリックと、
銃声やパトカーのサイレンなどを効果的に使った緊張感あふれるトラックで、のちのヒップホップに多大な影響を与えた。
N.W.A.は、Niggaz with Attitudeの略。
※2.
実質的デビュー・アルバムにして、最大のヒット作。邦題は『コンプトンの無法者たち』。
※3.
クリック・ハウス、ミニマル・ハウスのレーベルとして世界的な人気を誇るレーベル。表記は<KOMPAKT>。
公式HPは、http://www.kompakt-net.com/
※4.
‘96年に結成し、‘98年にシングル「DO YOU WANNA POP?」でデビュー。
メンバーは、ヴォーカルのKeyossie、ギターのマサヒロ、ドラムの真太郎、サックスのOTO、トロンボーンのKAORIの5人。
公式HPはhttp://www.posmusic.com/domino88/
※5.
サニーデイ・サービスのデビューから『MUGEN』以外全てのディレクターを務めた。
現在は、tokiola musicで、ビイドロやTwelveのディレクターを務めている。
※6.
12歳のときに、母国アイスランドでデビュー。
いくつかのバンド活動を経て、‘86年にギターポップ・バンド、ザ・シュガーキューブスを結成。
ヨーロッパを中心に人気を博し、日本でも注目される。
‘93年にアルバム『デビュー』をリリース後は、クラブ・ミュージックから前衛現代音楽までをも取り入れた独自の音楽性で、
全世界的人気を誇っている。 最新作は、映画『拘束のドローイング9』のサウンドトラック。
公式HPは、http://www.bjork.com/
ユニバーサルミュージック・ジャパンによる公式HPは、
http://www.universal-music.co.jp/u-pop/artist/bjork/index.html
※7.
ひんやりとした感触のシンプルな打ち込みとストリングスをバックにした2001年の意欲作。

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